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あの日出会った・・・メキシコの旅

未公開にしていた、メキシコの旅を公開することにしました、写真はまだ、あるだろうと思うので、これから少しづつ載せて行ければと思っています。
下の記事はいぜんの記事で手直しが出来ないのでそのままです。
2008年頃に書いてたようです。
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1997年頃だったと思うのですが、メキシコの山を登りに行きましたが、登山が出来なくなった時に、ほとんどの資料を捨ててしまい、登った山さえも、記憶が定かではなく、なまえすら書き込めないのが残念です。
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山と山とをつなぐ
細い道は

まるで私の生きる証のように
一歩踏み外せば
闇の中に堕ちて行く

それは一瞬の惑いなど
許せないひとすじの道

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<世界遺産、テオティワカン遺跡>

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ステンドグラスのとても美しい植物園で、地元の子供たちに、漢字で名前を書いてと、せがまれて、ほとんどの子供にサインをした、中には、片言の日本語が出来る子もいた。
楽しい、異国の地で、こんなふれあいが出来た時は、いつまでも忘れられない思い出だ・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

痛みはだいぶ治まってきたが、なぜか、顔にはりついた髪の毛は気になって仕方ない、実際には、それほど、伸びて邪魔しているわけではないのだが、とにかく、抜け毛がひどくて、気分が悪いので、おもいきって、ほとんど、丸坊主状態に切ってしまった。

私は、この歳まで、お嫁さんになる時と、娘が嫁に行く時だけしか、美容室に行った事がない、たいていは、自分の感覚で、切ってしまう、時には、大失敗した時もあるが、それとて、誰を恨むわけにもいかず、髪の毛が伸びてくるのを待つしかない・・・

今回は、体が思うように動かない中での事、でも、どうしても、気分転換がしたくて、思い切ってカットした、はたして、やはり、「失敗作」のようだ・・・

合わせ鏡をのぞきながら・・・
まあ~いいか~~幸か不幸か外出が出来ないから~~~
誰かに見られることもない、いざとなったら、帽子という、つよい見方があるのだからと!!!
自分に言い聞かせて、虎刈り「坊主頭を」なでている・・・
情けない、姿の、本日の私の姿・・・

美しき人に出逢える「奇跡」はもうないだろうし・・・





by hisa33712 | 2015-04-16 15:03 | メキシコの旅

再びの想い


この記事は2009年に書いたものですが、未公開にしていましたが、思いのこもった記事なので、今回公開にしてみました、文章をなおせないのでそのままですが・・・
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秘峰ウルタルは深い霧の中につつまれて
その勇姿を見せてはくれない
絶え間なく爆音を響かせ、雪崩がすざましく

明けきれぬ朝のうす闇の中を
私は彷徨い歩いたウルタルのベースの台地
あの幻の姿を見せてくれた山の師の極限の勇姿

天上の世界に一瞬私は近づいたのですか
別れのときのきらきらと輝く
美しい虹を私は今も忘れられない

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                 <ウルタル峰を望める、ホテルに飾られている、山の師の写真>

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あの旅をした日から、もう、十数年が過ぎた、だが、あの頃よりはるかに、難しい政情になってしまった!あの、穏やかだった、イスラマバードからのニュースが気になる!私はただ、平和であって欲しい!祈る事しかできない!!!


☆☆☆
ここ数日、暖かな春を感じる!、『美しき人』 はどうやら、つつがなく?撮影も進んでいるようだ!秋田はまだまだ冬の嵐が吹き荒れて、かなり寒そうだ、寒さが苦手な『美しき人』も事、撮影が始まると、並外れた集中力でドラマの主人公になりきっていることだろう・・・

韓国と日本では、国の置かれた状況が違う事で、ドラマで描かれる事が、中々理解出来ない事もある、けれど、台詞のひとつ、ひとつ、が、なぜか、とても観る者の心に伝わる事だけは確かだ!私は『美しき人』のファンだから贔屓目で見てしまうのだろうか・・・

でも、これほど、多くの人々に感動を与えてくれる事は、そこには、何かとても大切なこころや魂が込められている、と私は感じてしまうのです。

言葉の表現が美しい!そして、使われる音楽がよくあっている!私は、日本の映画やドラマも観ますが、なぜか、なにかが足りない気がする!でも、ああ~いいな~と、思う作品に出逢えると、とても、ほっとします!!!
やはり、日本人ですから・・・
今、日本のドラマで、お気に入りは『白洲次郎と正子の世界を』描いた作品です。
主役の伊勢谷君がとても素敵です。

<今私は、何処へも行けないし、体調が悪いとつい、心が弱くなるけれど、いつか元気になって、『美しき人』に出逢える!そう希望を持って・・・!>
by hisa33712 | 2015-04-07 20:33 | 私を輝かせてくれた3人

韓国映画に、さてどうした・・・

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以前に書いた記事ですが、再び載せていました、じぶんでは好きな記事なので・・・
(2009年に書いたものだったか)?

 ☆ ☆ ☆

第69回、ベネチア国際映画祭で韓国の映画監督「キム・ギドク」氏の作品「ピエタ」が金獅子賞に選ばれたようです!おめでとうございます。
<写真はキドク監督の作品「弓」のものです>

私のブログは、方向性が、定まっていない、はじめた時は、ただ、美しき人に心を奪われていたので、その思いを綴りたくて、今思えば、気恥ずかしくて、穴があったら、そんなふうに感じることも・・・

だからと言って、美しき人から心が離れてしまったわけではなく、「イ・ビョンホン」という、俳優として、又、人としての魅力はむしろ深くなったと思う、だが悲しいかな、身近な人でない事で、ただひたすら思い続けると、いう心情を維持して行くのには、心が老いてしまったか・・・

5月の季節は、私には特別な思い出がたくさんあって、どうしても、山への想いが心を乱しているから、今、体を思うように動かせなくても、山への想いがつのっては、現実に戻されて・・・

そんな時、韓国映画、キム・ギドク監督の「弓」を観た。
DVDでだが、2度つづけざまに観た!
私は、ほとんどがテレビか、DVDで映画を観る、外出が出来ない事もあるが、今は、ビョンホンさんの映画以外は映画館へ行こうという気持ちにならないのが正直なところだから、映画好きですとは言えないのでしょうが、テレビでは映画をよく観ている。

だが、はじめの30分が心惹かれるかで、終わりまで観るか、やめるかが決まる。
最近は、韓国の映画も多く放映されて、けっこう好きな映画も多い。

けれど、キム・ギドク監督の映画はいつも、心を持っていかれてしまう・・・
その理由がいまだにわからない、特別に、はでな、アクションがあるわけでもなく、ほとんど、台詞がない、役者さんが特に有名でもない(私が知らないだけかも)、どちらかと言えば、ストリーも坦々とした日常(一般的ではない日常だけれど)を描く・・・

最初に心を持っていかれた映画は「春夏秋冬、そして春」だった、この映画を観た時、説明の出来ない思いになって、レンタルで借りられる、キム・ギドク作品を全部借りてきて、続けざまに観た。

中でも、「うつせみ」と「サマリア」は私を廃人にして、しばらくの間、思考能力停止状態にした。

私は、映画を評論出来るほどの人間ではないので、私自身が感じたことを書いているのだが、一つだけ言えるとしたら、けっして映像が派手ではないのに、この頭の中にしっかりと刷り込んでしまう事、ギドク監督作品を観ると、しばらくは、私自身の思考能力を持っていかれてしまうのだ。

今回見た「弓」もまさしく、そうなのだ、この2日間、何かをしていても、それほど、強烈でも無い映像のあるシーンが、現れて、私が勝手に言葉や思いをその場面にはめ込んでいるのだろうか、なにしろ、この映画も、ほとんど台詞がない、俳優はその表情だけで、映画のストリーを描き、見る側に伝えている。

韓国は映画産業で、国の経済を立て直す国策をするほどの国です(もちろん、映画産業だけで、国の経済が立ち直ったわけではないが)・・・

もちろん、日本の映画も好きですし、観ている映画も多いです。
ただ、今のところ、日本の映画で、心を持っていかれた、作品がない事が、すこし残念です。

ただ、これだけは言わせてください!!!

俳優は「イ・ビョンホン」で始まり!!!

ビョンホンシの「魂の演技」に、これからも離れられないでしょう!!!

元気になったら、山へも復活して・・・
夢と希望で、頑張らなくちゃ~~~
by hisa33712 | 2015-03-20 15:53 | ひとりだけのシネマ館

やはり凄い!でも、不思議で難しい、鬼才、キム・ギドク監督!

何日か前にツタヤのレンタルショップに行って、ちょっと、驚き、韓流物がずいぶんと少なくなった!私自身も今は韓国のドラマや映画も観てないから・・・
内容がどうも、似たりよったりだし、飽きてしまったのか・・・

今やハリウッドスターになってしまった「ビョンホン」さんだけは今でも大ファンだけど、私は劇場に行けないからDVDが出るまで新作の映画も観れない。
ビョンホンさん出演のハリウッド映画「ターミネーター」の新作が日本で公開が7月だとか、DVDになるのはいつごろになるのだろうか・・・

下の記事は2009年頃に書いた記事ですが、懐かしくなってまた載せてみました。

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久しぶりに、散歩がてら、ツタヤのレンタルショップへ行って、驚きだった!
まるで、店の半分が、韓国のドラマや映画で占められているのではないかと思うほど、多くなっていた。
最近は、DVDのレンタルショップが店じまいする所が多くて、事実、愛用者としては非常に困っていたので、歩いて行くには、私には少し遠い場所だけれど、頑張って行ってみた、その中で、比較的新しい映画で・・・

韓国映画の 『悲夢』 と、洋画をもう一本借りて来た。

この映画 「悲夢」 は私の大好きな韓国の映画監督「キム・ギドク」の作品だ!
この人の作品は、不思議なほど、惹かれるのだが、私の頭では中々理解出来ないのが本当のところだ!
だが、映画を観始めると、止められなくなる!
いつもながら、派手な、アクションや、ストーリーの展開が面白いと言う事ではないのです。
私に、映画の場面、場面を、しっかりと、この私の脳裏に刷り込んでしまうのです!!!
又、韓国の何気ない風景がとても美しい!

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オダギリジョーが日本語で、周りの俳優は韓国語なのだが、不思議と違和感を感じない!
あまり、台詞が多くないから?演じる俳優の表情によって、伝わるのかな~~~
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<しばらくは、突然、現われる、ワンシーンに、この私の思考能力を持って行かれるだろうな~>

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『美しき人』はいつだって、私の心から離れる事は無いのですが・・・
こちらの方に、「美しき人」への私の勝手な想いを描いています、もし、よろしかったら、読んでみてください!
http://blog.goo.ne.jp/cyogori33712/

私は欲張りだから、こちらも、気になります、お天気が良い日がつづきますように・・・
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近藤謙司さん率いる、2009、チョーオユー登山隊ももうすぐに頂上へです、頑張って下さい、お写真借りてます。
<10月1日~2日にかけて、登頂されたそうで、本当におめでとう、今ごろは、ベースキャンプにて、祝杯してるかな!> 4日 記
by hisa33712 | 2015-03-19 15:33 | ひとりだけのシネマ館

お久しぶりです、又どうぞよろしくお願いします



中々、言葉が思いつかないので・・・
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ここでもやはり「美しき人」のお力を・・・
by hisa33712 | 2014-05-25 17:00 | 生きて行くこと

若き日の私の先生だった「天声人語」

今はもうほとんど文字が読めないので本はもとより新聞も読んでいない、もともと視力が悪かった目だったけれど、脳梗塞を何度も繰り返し起こしていて、記憶障害をはじめ耳と眼の後遺症がひどい、右眼は失明状態だったけれど奇跡的に視力を回復したが本や新聞を読めるほどの視力はない!

一時期、絶望や不安感、そして真剣に自分がいなくなった時のことを考えて、身の周り物を極力整理した、その中で、4つあった、大きな本棚を全部資源ごみに出してしまった。

67年の私の生きてきた中で買い求めた本、そしてその中には若き日の私を感動させ導き成長させてくれた<天声人語>の文庫本も多くあった!

19歳で上京し、子供の時に親を亡くした私は、本当に無知で何もわからず、頼れる人もなく不安だった時期に、せめて新聞くらいは読まなくてはと3畳一間の学生アパートで節約と貧しさに耐えながら新聞を買って読んだのが<天声人語>の一言、一言が私を勇気づけ、頑張る力を与えてくれた。

23歳で結婚するまで、本当によく読んだ、残念ではあったが、結婚相手が他紙を好む人だったので、しばらくは天声人語とは離れていたが、ある時、天声人語が文庫本になっていることに気づき、心に残る言葉にひかれた数冊を買い求めてよく読んでは、勇気をもらっていた。

今はもう、ほとんど忘れてしまったけれど、若き日の私を成長させてくれたこと、私の人として本質的な部分を作り上げてくれたと、今も思っている!

しっかりと生き抜く、この言葉の何かを感じ取れた事や<美しき人>の生き方や感性、魂に触れられたこと、私の感性つくり、心の栄養として成長させてくれた<天声人語>

不自由さの多い私の体だけれど、希望という言葉を忘れずに生きられる幸せに<感謝>

by hisa33712 | 2012-06-30 08:55 | 生きて行くこと

残酷な歳月・・・(小説)

眼も耳も元気だった頃に書いた作品です、せっかく書いた物だからと、家人のすすめと手助けで載せてみました、御読み頂ければ嬉しいです。
今の私は自分で読み返しが出来ず、残しておいた資料のままですので、理解出来ないところもあるかもしれませんが・・・
いくつかの小説や詩など書き残せた事はとても幸せで、生きる力になっています!!!


<残酷な歳月>
(1)
人は生きている限り時間と言う、眼に見えない存在が人間を支配して、喜びや感動、そして苦しめもする、それは人間がこの世に誕生して心を持ち、文明による発展と感情を支配された瞬間だ!
科学、文明、人間、思想、そのすべてにおいて争う事が私はこの愚かさが信じられない悲しみに思える!
ごく普通の人々が、突然の耐え難い悲劇にあいながらも、声を出せずに泣き、涙を流し、この生きる世界でどれだけの人が苦しみ、悲しめば、神は、残酷な時間を止めて、悲しみの涙を、喜びの笑顔に変えてくれるのでしょうか!
過ぎて行った時間や歳月を取り戻す事は出来ない!
神が定めた運命なのだろうか、今、はじまろうとしている出会いを、ひとり、いや、ふたりの男がたどる、どうする事も出来ない運命、『残酷な歳月』

<再びの愛>
ジュノは成田空港へ急いでいた、加奈子を迎えるために車を走らせながら、一年ぶりに逢える加奈子の笑顔を想いながら、可笑しいくらいに、はやる心で華やぐ・・・

お互いの仕事の関係と忙しさから、日本とアメリカに住むふたりは、お互いの立場を尊重して、出逢い、愛し合いながらも、長い時間が過ぎた今でも、「結婚」の言葉を口にする事は一度も無かった。

ロスからの飛行機は少し遅れて着いたが、お互いを求めて抱きしめあいながら、心がひとつになり幸せな瞬間だった。
今日からほんの数日間、ふたりの貴重な時間を共に過ごす、愛しあえる時間を楽しむ、ただその事だけを考えた・・・

「ああ~私、今、日本にいるのね~」
「ジュノさん、元気でいてくださって、うれしいわ~」

いつもとはちがった、加奈子はこんなふうに気遣った言葉で会話する事は珍しい、やはり、長すぎる逢えない時間がぎこちなくさせているのだろうか・・・

ジュノは今回の休暇をふたりで過ごす予定をまだ、加奈子には何も話してはいなかった。
お互いの生活時間、日本とアメリカでは時差もあり、中々連絡する事さえもおろそかになり、それでいて、別の愛を選べないふたりは固い絆で結ばれていた。

ひとまずは、ジュノの住む部屋にふたりは落ち着き、休む事にしていた。
いつもなら、ジュノは加奈子を迎えに出られる事は殆ど出来ない、仕事のスケジュールはそれほどきついものだった。
けれど、今回は、珍しいほど10日間もの休暇を取る事が出来た、確かに、無理にジュノが仕事のスケジュールを組み替えた事で叶った休暇だった。

ジュノの部屋に着いて、やっと、加奈子に、ジュノは、今回の休暇をすごす予定を話した。
成田から、ここに着くまでの間、加奈子は何度も今回の予定を聞いてきたが、ジュノは、悪戯っぽく
「部屋に着いてから、話してあげるから、楽しみに待っていて!」その答えを繰り返していた。
加奈子は手荷物を部屋に置いたまま、コーヒーを入れながら、又、聞いてきた。

「ね~、ジュノ、早く、話して!」
「気になって仕方ないのに、いつまで、待たせるつもり!」
そう言って、ジュノに予定を聞かせてとせがんだ。

加奈子から、コーヒーを受け取りながら、ジュノは、明日泊まるホテルのチケットを加奈子に手渡して!
「ふたりで、北穂高の滝谷のドームを登ろう!!!」
「君の夢だろう!滝谷のドーム!」

そう言って、加奈子に今まで、じらせて、言わずに苦しかった気持ちがジュノはいっぺんに解放された気がした。
加奈子は、震える手でチケットを受け取って、声も出せないほど、嬉しさで感動していた。
加奈子はどんなに望んでも、ジュノとふたりで、穂高に登れるとは思っていなかったし、ましてや、大好きで、夢でもある
「滝谷のドーム」

しかも、ジュノ自身からの計画を聞かされて、驚きと喜びで、言葉で表せないほどの感動だった。
アメリカで過ごした休暇では、良く、ヨセミテなどへふたりで、登山やロッククライミングに出かけたけれど、ジュノの住む、日本では、山ではなく、海での休暇が殆どだった。

ジュノには、心から消す事の出来ない苦しすぎる記憶が、穂高の山にはあったのだった。
あまりにも残酷な運命をジュノは抱えて37年を生きて来た。

その事を、加奈子は詳しくは知らないけれど、ジュノの家族を失った場所だと言う事はなぜか知っていたから、加奈子の望みである、穂高への登山を希望した事は一度も無かったし、日本で過ごす休暇では登山やロッククライミングなどは極力言葉にせず、避けるように気をつけていた事をジュノは知っていたし、そんな優しさ、心遣いをしてくれる加奈子の優しさに感謝していた。

今回のふたりが使う山の装備は、ジュノがすでに、上高地の「帝国ホテル」に送ってある、明日は、早い時間の「特急あずさ」で身軽に出かけられる。
出来れば、車を使いたいが、上高地までは、車で入れないので、列車を利用する事にした。

夏のおわりの北アルプス、穂高への登山道は、お盆が過ぎて二十日にもなると、気の早いナナカマドがちらほらと、色付き始めて、足早にやってくる、秋の気配を感じさせて、早朝の登山道を抜ける風は少し冷たさを感じた。

なんとなく、気だるかった気分がいつの間にか、ジュノと加奈子のふたりは、久しぶりに一緒に歩く、山の匂いに酔い、特に山やロッククライミングが大好きな、加奈子は大きく手を広げては、爽やかに冷えた空気を胸いっぱい吸い込んで、まるで大自然の中を踊るように、羽ばたくように楽しんでいた。
「梅雨明け十日」と言う言葉がある!」

夏山の登山の最盛期には、北アルプスでも、このルートは、いちばんの人気のコースである、涸沢カールをメインにして歩くコース。

夏山登山最盛期であれば、夜明け前から、人があふれるほどの賑わいが、わずか十日過ぎた今の時期は、まるで嘘ように、登山者もまばらで、穂高のメインコースの登山道であっても、出会い、すれちがう人も少なく、ましてや滝谷のドームを登っているのは、ジュノと加奈子のワンパーティだけのようで静かだった。

「オーケー、ジュノ、オーケーよ!」
心弾む加奈子の声が冷たい風にさえぎられながらも、途切れがちにかすかにジュノに聞えて来る。

登山のベストシーズンがはずれた、今の時期は、晴天率がかなり低いと言われている中で、幸運にも、昨日と今日は、まるでジュノと加奈子の心を自然が読み取って現しているような、雲ひとつない、透き通るような、青い空は、よりふたりの絆を深くして、ふたりを祝福するかのように、文句なしのクライミング日和だ!

ジュノは岩に手が触れ、一歩踏み出そうとした瞬間、不意に体じゅうのエネルギーが抜けてしまいそうに、昨夜、加奈子との愛し合った、あの時の喜びの感覚が、ジュノの体のすべてに伝わり来る、一瞬のうちに、駆け巡って、言葉に出来ないような幸福感と気だるさが共存した。

言葉で表現出来ない感覚の不思議さが伝わって来たような、強く、熱く、なにかがジュノの体に走った。
加奈子との愛を交わすとき、ジュノは、あの繊細さと大胆な行為!、加奈子という人間の本質的な部分が、わからなくなる。

時には加奈子の体全体からかもし出される、官能的過ぎるほどの魅力に酔わせてしまう、あい反した姿は私をまるで別人のように狂わせて、夢中にさせてしまう。
だが、日常の加奈子は、知的で、美しさを内に秘めた、控えめな気品を漂わせて、非の打ちどころも無く、女性としての内面の奥深さを魅せて、時として加奈子の発する言葉は音楽を奏でるような響きに似ていた。

(2)
今、加奈子は大好きな岩に触れられる事と、愛するジュノが一緒だから、声がうわずってしまうほどの嬉しさと幸福感に酔い、心が弾むようで、上機嫌だ!
ジュノと加奈子はアメリカの大学の時からの恋人同士、加奈子はアメリカ生まれの日本人だけれど今もアメリカで暮らしている。

才能と、知識豊かで、いわいる、誇りある弁護士として、アメリカでとても人気があり、信頼されて仕事をしている国際弁護士だ。
ジュノも又、名医として知られている外科医、日本のある有名私立大学病院で外科医として勤めている。

又、時間の許す限り、心療内科医として、池袋にある、ヒマラヤ杉医院で診療もしている、ジュノと加奈子は、お互い、とにかく、仕事がいそがしいから、やっと、一年に一度、ふたりが逢う為に、忙しさから逃げ出すように努力をして、時間をつくっていた。

そんな時、いつもお互いの甘えから、ちょっとした喧嘩にもなったりするが、それは、少しだけ趣味の違いがある事から起きる、じゃれあう言葉遊びのようなものだった。
ジュノはどちらかと言えば、暖かい場所、南の小さな島、あまり、人のいない、海岸のきれいな海が大好きだった。

そこで、スキューバーダイビングや、海のスポーツをして遊びたい!「誰にも邪魔されたくない、加奈子と過ごす時間が大事だった。」
山よりも海が好きになった事は、ジュノ自身も気づかない心の苦しみが無意識の内にジュノの中でつくられて行った、精神構造なのかもしれない!

だが、「加奈子は、とにかく、山が大好きだった」特に、ロッククライミングが、何より大好きだった。
両親の仕事の都合で、アメリカで生まれ育った加奈子は幼い頃から両親が登山やロッククライミングが好きな事もあり、ヨセミテやアリゾナなどで、クライミングを楽しんで成長した事で、加奈子はとにかく岩に触れる事が大好きなのだった。

けれど、加奈子はアメリカでの教育を受けた女性ではあるが・・・
『心からジュノを愛している加奈子は!』

最後はいつも、ジュノの希望する海のリゾート地を選び、快く決めては宿などの手配も、手早く済ませては、ジュノをいつも驚かせている。
ジュノは加奈子のそんな姿に深い愛を感じて、嬉しかった。

だが、今回の休暇はジュノが加奈子に内緒で決めて、加奈子が日本に着いた時、穂高へ加奈子を案内する事と、しかも、加奈子の憧れである、滝谷を登る事を伝えた時の加奈子の喜びようは、ジュノの想像をはるかに超えていた事が、ジュノは改めて、今までの加奈子のジュノへの愛情の深さを思い、その夜はジュノと加奈子の特別な夜にする為に、ジュノは密かに予約を入れていた。

上高地の帝国ホテルのスイートの部屋の静けさは少し、ベストシーズンを過ぎていた事もあり、ふたりを包み込んでしまうほどの静寂の時を保ち、お互いの鼓動を確かめられるほど、心がひとつになって、深く、深く、愛し合った。

そして今、ジュノと加奈子は、お互いを信じあえる、最高のパートナーとして、穂高の滝谷ドームの岩に触れている。
同じ頃、穂高、北尾根を挟んだ、岳沢に、一人の老人がじっと目を凝らして、吊尾根をみつめて、深いため息をつき、涙を流しながら、長い時間その場所を離れずにいた。
「そして、心の中で、叫ぶ!」
「友よ、君はまだ、僕を許してはくれないのだろうか?」

痛み続けるこの心と体に、今、岳沢を包む闇が足早に、もう何時間ここにいたのだろう、あの、忌まわしい、一瞬の出来事がまるで、幻だったかのように、静かに岳沢に闇が迫って来た。

忘れる事など出来ないあの場所、大切なふたりの変わり果てた姿は、今はないが、あの時抱き上げた、あの子の微かなぬくもりが、今もこの私の手に残っている。
あの忌まわしい事故から・・・
「二十六年の歳月が過ぎてしまった!」

黒い闇が迫る、吊尾根を見上げながら、大杉は深い、ため息とも、うめき声とも区別がつかない、苦しみから,のたうつような言葉を搾り出すような声で、まるで独り言のように、又友に語りかけるように、大杉のむにの親友だった、ここ岳沢に眠る『蒔枝伸一郎』に語りかけた。

「もう、これ以上、あの日、あの時を」「この胸の中に閉じ込めてはおけない!」
避けようのない、後悔を持ち続けて来た歳月、君の大切な家族をさがし続けていても、もう、私には、あまりにも、苦しく、辛すぎて、自分を責め続けては、生きて行く力もなく、この私に残された力と時間のすべてをかけて、君の大切な家族へ、本当の事をつたえる時が来たのだと思う。

「君の美しき魂の力を!」
「真実が伝わるように、僕に手助けをしてくれるね!」

君の愛する家族へ、君の美しき清らかなる魂が、きっと、私を導いてくれる事を願っているよ・・・
残酷な歳月は、人を狂わせて心を壊して、運命が導く魂の叫び、引き寄せられる運命、すぐそこに愛する人がいると、あの日美しき人は感じた
眼に見えぬ何かが一歩近づく、貴方の呼ぶ声を聴いたのだろうか

「イ・ジュノ」三十六歳、韓国国籍である、日本人、職業、外科医、そして、心療内科医でもある。

東京のある有名大学病院で外科医として勤務し、東池袋の小さな『ヒマラヤ杉医院』でボランティアで心療内科医をしている。
恋人はアメリカ在住の日本人、津下加奈子三十六歳がいる。

ジュノはあまりにも仕事が忙しくて、韓国ソウルに住む、育ての親である両親にも、もう、二年近く、会っていない、もちろん、電話などでは、お互い、近況報告のように、連絡はしているのだが・・・

ジュノと加奈子は穂高から戻り、加奈子は二日ほど、ジュノの部屋で過ごして、あわただしく、ロスへ帰ってから!
ジュノは「ただ、ひたすら、仕事に追われる毎日だ」

そしてひと月が過ぎた頃、池袋のヒマラヤ杉医院で『心療内科医』としての診療中に、ジュノの元に、ひとりの老婦人が、運ばれてきた。
池袋警察のなじみの刑事、田山がつれて来たが、老婦人を投げやりな態度で、いかにも、面倒そうに言った!
「どうも、不法滞在者の韓国人らしいのだが!かなり、危ない状態でね!」
「警察に、通報があって、引き取りに行ったが、動けずに、口もきけないでさあ~」と!
その、田山刑事のぞんざいな話しぶりが、ジュノには、いつもながら、すこし、嫌な気分になった。

池袋という街は、確かに、毎日が、雑多な事の繰り返し、似たような事で、田山刑事も、人間の優しさを持ち合わせていたとしても、日常の、このような、多くの出来事がぞんざいな言葉で、他人を傷つけてしまう事にも、心で気配りが出来るほどのゆとりさえない、日常を、ジュノも理解出来るが、ことさら、「どうも、韓国人」らしい、の一言が、ジュノの神経を逆なでする思いだった。

診察室のベットに寝かされている老婦人は、もう、自分では、体を動かす事さえも、不自由なほど、痩せ細り、いつ着替えたかも分からないほどの、季節はずれの夏の汚れた服装に、誰かが羽織ってあげたのか、ピンク色のショールを体に巻き付けるようにして、ベットに横たわっていた。

ジュノはまず、日本語で、言葉をかけてみる!
「お体の具合は、いかがですか?」「どうしましたか、どこが、痛みますか?」
だが、なんの、反応もしない、そして、韓国語と英語で、同じ事を、尋ねても、やはり、何の反応もしない、ただ、この部屋のすこし、高い位置にある、明かり取りの為の天窓から、見えている、わずかに色づいた木々が風に揺れている姿を見ているのだろうか・・・
声をかけている、ジュノの方ではなく、微かに見えている、ゆれる木々から、なぜか、眼を離そうとはしなかった。

田山刑事は、厄介者はジュノに、任せたとばかりに、さっさと消えていたが、どうも、最初に、警察に連れて行ったようで、その時の、調書のメモが、ジュノに渡されていた。

その中には、ある、古アパートの取り壊しが行われていた中のひと部屋に、この老婦人が、うずくまっていて、動けずにいるところを、田山刑事が、引き取りに行き、警察で、事情を聞こうとしても、何も話さず、今にも、倒れそうな状態に、困り果てて、ジュノのいるヒマラヤ杉医院へ運んで来たと言う事のようであった。

このような事は、今までに、何度もあり、その度に、医療費は何処からも払って貰えず、この、小さな医院で、半ば置き去りになったまま、亡くなってしまうことも度々ある。
言わば、経営が成り立つほどの診療所ではないが、心あるひとたちの援助で、細々と続けている、医療施設だった。
だから、ジュノも、ほとんど、ひと助けのような気持ちから、続けている心療内科医としての良心からだった。

(3)
ジュノの何度かの呼びかけに、老婦人は、やっと顔を動かし、ジュノをしばらくみつめていたようだったが、言葉を話せるほど、意識がはっきりしていないのだと、ジュノは、その場を離れようとした時、消え入るような、かぼそい声で、老婦人は言った!
 『ヒョンヌ』
確かに、そんな、ふうに、ジュノには、聞えた!
『ヒョンヌ』
この言葉!
ジュノには、ずーと昔、何処かで、幼かった頃なのか!確かに、聞き覚えのある言葉だった。
『ヒョンヌ』
だが、ジュノは、その言葉が、何を意味する事なのかが、分からない、いや、思い出せないと、言うべきなのだろう、そんな、複雑な心境におちいって、混乱しているジュノに、追い討ちをかけるように、この小さな医院のデスクの電話が、ジュノを呼び出した。
ジュノの記憶の奥深く閉じ込めていた、あの声が電話の向こうから聞えた。
『大杉という者だが、私を覚えているか?』と、忘れる事など出来ない、あの声がした。

幼かったあの頃貴方は優しかった
いつもふたりで競い合った暖かな背中を
消えかけた面影が美しき人を傷つける
あの幼かった妹に夢の中で手をつなぐ
今どこを彷徨うのか凍えてはいないだろうか

あの声を忘れない為に!いや、忘れようと思い努力した事もある、その混乱する苦しみの中の記憶に、ジュノはどれほど自分を痛めつけ、もがいた事か!

「やっと心の奥深く、閉じ込めていた、あの声!」
「二十六年の歳月」

十歳の子供だったジュノの運命を変えてしまった、突然の出来事と、二十六年の過ぎて行った日々がまるで、早回しする映像のように、幼かった日々とが折り重なるように、ぐるぐると、回りだしている。

あの声が、あの日に、あの場所の記憶がジュノの悲しみや怒りなのだろうか、思い出したくない気持ちとは、裏腹に現われて、身体中に響く、あの声がする!

『十歳の寛之としてのジュノが、そこにはいた。』

ジュノは、あの声にばかり気を取られて、混乱したのか、電話で何を話したのか、思い出せない!

だが、気がつくと、すでに電話は切れていた、そしてあの電話があった、数日が過ぎた日、突然、ソウルに住む父からの電話に、ジュノは、長い間、閉じ込めていた、疑問や不安が動き出す恐怖を感じて、全身を緊張させた。

「何かが動き出した」
「何かが起きている!」
「混乱と焦り、眼に見えない、恐怖感!」
「ジュノ自身を包み込んでしまいそうな、緊張感!」

何かにたとえようのない、ジュノの理性さえも奪ってしまいそうな、心の中で謀反をかきたてるものがいるような不安感であった。

「あす、母さんとそっちへ行くから、」
「会わせたい人がいるから」

そう話した父の様子からも、ジュノは、何かを感じ取った。
「ジュノは両親の待つホテルへ急いだ・・・」

ジュノはアメリカの医大を卒業して、研修医としてのスタートは東京だった、なぜ!、東京を選んだかは、はっきりとした意識は無かったけれど、心の奥底に、自分は日本人だという、思いがあったのかもしれない。

ジュノが東京で暮らすようになって十数年、両親は、意識的なのか、ジュノの部屋には、よほどの事がないかぎり、来る事がない、今回も、ホテルに部屋を取っていた。
ジュノはホテルの部屋の前で、なぜか、今まで感じたことのない、緊張感で胸が締め付けられそうな思いになりながらも、いつもと変わらない、明るい笑顔をつくり、ドアを開けた。

「その、瞬間!」

あまりにも、年老いた両親の姿に、ジュノは、かける言葉も無く、愕然とした思いで両親のまえに立った。

確かに、二年もの間、仕事の忙しさを口実に、ソウルの家に帰らずジュノ自身にも気づかない、養父母を避けたいという気持ちが働いていたのだろうか、だが、どんな言い訳をしたところで、今の両親をほおって置いた事は事実だった、ジュノは、申し訳ない気持ちで心が痛んだ。

部屋の奥に、すでに「会わせたい人」が来ていたようで、両親との挨拶もろくにせずに、なぜか、気まずい雰囲気で、ぎこちなく、父が・・・
『大杉さんを知っているね!』

そう言ってジュノに紹介するでもなく、会わせて、父は、次の言葉を選ぶように話し出した。

二十六年前のあの事故の時、誰よりも早く駆けつけてジュノを助けたのは
『大杉さんなのだよ!』

岳沢のあの場所へ、駆けつけて、ジュノを夜通し抱いて、必死で歩き、病院へ運んだ人は
『大杉さんなのだと!』

養父の言葉は、なぜか、伏し目がちに、苦しそうで、ジュノには、素直に受け止める事が出来なかった。
十歳の少年だった、あの時の、突然の出来事!

わずかな意識の中の記憶、途切れがちに聞える「山靴」の音なのだろうか、ジュノが不確かな意識の中で真っ赤な景色がうごめく記憶の中を走る。

『暗闇の中で泣き叫ぶ自分の声が聴こえる』
養父は、私が生きて、助かった事は、奇跡だった!
大杉さんのとっさの判断と行動がジュノの命を救った!

大杉さんの必死でジュノを助けたい思いが奇跡を起こしたと言う、養父の、その姿が何処となく、おどおどとしているように感じて見える。
そして、はっきりとした私、ジュノとしての意識や記憶があるのは!
『なぜか、日本ではなく!、ソウルでの生活だったのか!』
今の両親が私のそばにいる生活、欺瞞な心を隠した、幸せな笑顔の私がいる生活!
だけど、私には、幼かった頃の『蒔枝寛之』の本当の笑顔の記憶がはっきりとある、消す事の出来ない、記憶がある!

私は何処から来たのですか
私の命を誰が奪おうとしたのですか
今はじまる運命はもう誰にも換えられない
誰からも愛される美しき人は心の奥に
秘めた確かなる記憶あの山靴の音が
私の新たなる道しるべ愛に満ちた輝きの歩み
by hisa33712 | 2012-06-20 17:38 | 残酷な歳月・・・(小説)

残酷な歳月・・・(小説)

(9)<自らの命さえも>
すべての感情も感覚も麻痺して、ジュノは時の歩みさえ、止まってしまっているように、音のない、よどんだ空気の中で、辛うじて、呼吸していた。
締め切った部屋は、朝なのか、夕暮れの闇が訪れているのか、なにひとつ、考えることも、体に感じることの辛さをすべて、拒否している。

『自らの命さえも、拒否してしまいたい衝動にかられた。』

だがその事さえ、いつの間にか、ジュノの思考から消えていて、すべてが、虚しく、呼吸する事さえ辛く感じた。
ジュノは誰とも会わず、ただ、空虚さから抜け出せずにいる事がむしろ楽に思えた。
もう、どのくらいの時が過ぎていたのだろう、眼だけが時折何かを求めて動く、幻がジュノを誘うように!だが、ジュノは気づかぬ、ジュノ自身の中で充溢した、全身のエネルギーと血が動き出している事を!

何も見えない、現実から逃避しても、生きた若き肉体はジュノの意志とは相反した力が宿る!
少しずつ、ジュノが持つ潜在能力が内面の細胞が動かし、虚しさを取り除く!
それは、長い時をかけて刻み続けた、ジュノの中にある
「見えざる、魂の叫び!」

そんな時に、感じた、心が揺れる思い!養母が奏でるピアノの調べに、いつの間にか、ジュノは、すこしずつ、すこしずつ、心が揺れ動いている自分に気づいた時、たとえようのない、悲しみが、まるで、津波が襲い掛かるように、ジュノを包んで、子供のように泣き叫ぶように、泣いた。
『ジュノ自身ではとめようのない、悲しみと怒りの感情が、襲う!』

母が静かに、ジュノのそばに来て、ジュノを、幼児を抱きしめるように、ただ静かに抱きしめながら、そして、すこしでも、食べましょうと、幼児に話しかけるように、用意していた、「あわ粥」をジュノの手を取り、わたした。
ジュノは、いつの頃からか、病み上がりには、あわ粥を好んで食べるようになっていた事を養母は忘れずにいてくれたのだ。

もう、両親とは十八年も離れて暮らしていて、ジュノ自身もその事を忘れていた事なのに、十歳の時のあの事故で、生死の境を彷徨い、意識が戻った時には、すでに、今の両親が、父と母として、ジュノのそばに接していたので、混乱の中で、ジュノはその事を受け入れなくてはならず、子供ながらも実の両親の事は、聞いてはいけない事なのだと、思うようになって行った。

父と母は、とても優しく、『時にはぎこちないほどの愛情表現を』 ジュノに注いで、その事がジュノは息苦しく感じながらも、精一杯の明るさと笑顔で、交わす事をいつ頃からか、うまくなっていった。
母は、ジュノがすこしでも、食事が出来た事が嬉しかったようだ、長く、締め切ったこの部屋のよどんだ空気を入れ替えて、ジュノが少しでも現実を受入れる事が出来るように、今の母の細やかな心遣いが、自然な振る舞いとして、現われていた。

静かに、窓のカーテンをあけ、外の光を、ジュノに感じ取ってほしくて 「すこし、窓を開けてもいいわね!」 と言ったあと、「先ほどのピアノの曲、覚えていますか?」とたずねた。

確かに、ジュノには、いつの頃からか、ソウルのこの家にいる時に、良く聴いていた曲で、実の母が好んで弾いていた曲で、今の母も、演奏して聴かせてくれた曲だった。
「ショパンのノクターン」だった。

時には、ジュノは、今の母の弾く、この曲を聴くことが辛かくて、怒りさえ感じた事もある、『偽りの愛と心で、この母の奏でる調べは、矛盾に満ちた音楽!』なぜ、僕にあてつけるように弾くのだろうかと!「胸が痛くなった事もある!」だが、今、養母は、ジュノが思ってもいなかったことをつげた!
「ジュノがいつか、本当のお母様にお会い出来た時の為に!」
「その時まで、忘れないでいてほしいから!」

辛い事かもしれないと、思いながらも、ジュノに聴いてほしくて、覚えていてほしくて、あの曲を弾いていたのだと、話した。
母は、今までの、気丈な姿ではなく、ただ泣き崩れるような、悲しみの姿だった、この母の姿を見て、ジュノの中で、何かが、変わって行った気がした。

自分だけが、悲しくて、辛いのではないのだと、今の両親の、苦しみと、悲しみもまた、ジュノと同じように、いつかは、現実を受け止める事を覚悟して、私を実の子供として愛情を一心に注ぎ、育てながらも「何故!」の疑問を突きつけられることを覚悟した!

父と母の、あのぎこちないほどの愛情表現で、ジュノへの親子としての絆をむすびたかった!
養父母の辛すぎるあの頃の姿を思い出した。
だが、ジュノは偽りの親子として、義務のように、必要な距離間を持ち、誰でもが理解できる理性ある息子としての役を演じて接していた自分の心の狭さを、今、改まって、ジュノは思い出していた、
混乱する思いの中で!

あの、お互いのぎこちなさが、時としてジュノをたまらなく、いらだたせた、十代の頃の抑えようのない、反抗心が、理由もなく、養父母を傷つけた、心のひずみを、つねに感じては、ただ、この家を離れたくて、アメリカへの留学を一方的に決めて、事後承諾させてしまっても、ただ、両親は、寂しさを隠しながら・・・ 
『いつも君を愛しているよ、と父は、ひと言!』
『私たちの大切な息子だと言うことを忘れないで、と涙顔の母』

ふたりの切ないほどの寂しさを隠して、言った、困った時には、いつでも、連絡するのよと、一言伝えるだけの精一杯の愛情表現で!自分たちの感情を、押し隠して、アメリカへ送り出してくれた。
あの日から十八年の歳月を、私は、両親に対して、本当の心を見せたことがあっただろうか・・・
どこかで、裏切り続けてはいなかっただろうか!

どこかで、疑問と不信をいだきながら、欺瞞に満ちた笑顔と明るさを、誰に対しても、私の大人としての振る舞いなのだと自分に言いきかせて、自分の本心を隠していたジュノの青春の日々!!!

私の笑顔が大好きだと抱きしめる母のぬくもり
ぎこちないまでに幼さを演じた愛を得る為
うすっぺらな仕草これ以上のうそを演じる事など
偽りの愛情と矛盾を美しき人の心が許さない
すべてのはじまりはただ愛がほしくて

虚しさと不安は相変わらず、ジュノの心は暗い闇の中をはいずり、彷徨うような気持ちで、今、何をすればよいのか、時々、自分は何者なのかと、今までの自分をすべて否定するしかないとさえ、思う事も強く感じる事もある。

混乱する心と体のバランスが益々悪い日々の中、ジュノは、日本へ帰る事になり、仕事に復帰する事になった、誰もが認める外科医としてのジュノを世間がほおって置いてははくれない!

養父母は、この際、韓国に戻って、ソウルの病院で仕事をして欲しいと強く勧めてくれたが、今のジュノには、出来れば、今の両親とは別れて暮らしたかった。

確かに、今までの、疑問や不安だった事が、ある程度は、分かった事、今の両親のジュノに対する愛情の深さも、理解出来てはいても、もうこれ以上、養父母に、ジュノ自身が問いかける事など出来ない!

「誰にも、事情説明を求めてはいけない!」
そんな思いになるけれど、ジュノの中では、消す事の出来ない混乱した精神、もやもやとした不快感が、ジュノ自身に囁く・・・

『本当の事を聞きたい!』
『真実を知りたい!』

真実のすべてを知らされてはいない気がして、その事を、考えた時、どうしても、もう一度、大杉さんに、会うことが必要だと、思うのだった。

弱りきった精神と体は、時として、ジュノを襲う悪寒や、めまい、そして、食欲もなく、口にする食べ物の味など感じる余裕もない、体のすべてが、生きる事を拒否しているように、ジュノを苦しめた。

だが、外科医としてのジュノには、どんなに精神や体が悲鳴をあげようとも、それは、ジュノに係わるすべての人々が、又、患者さんが、許してはくれない、現実が待っていた。

今の、ジュノの現実の事情を知るものは、ほんの一部の人間だけだから、一旦、職場に戻れば、天才的な外科医として、病院はもちろん、外科医として、世間で、そして、医学界の中でも、知名度が高い為に、わざわざ、この、病院を、頼ってくる患者も多い、ジュノの勤務日は、多くの予約で埋め尽くされていた。

そしてジュノに突然起きたこの度の事では多くの仕事関係者に迷惑のかけた事でもあった。
どんな事情があったにせよ、ジュノを頼りにしている、「患者さんの病状は、待ってはくれない!」

いくつもの、問題をほおり出して来た日々のしわ寄せは、容赦なく、体調の悪いジュノを攻め立てるように、一瞬の気休めも許されないように、次々と、仕事を進めるしかなかった。

そんな数日が過ぎたある日、突然、ジュノの部屋に
『加奈子がいた!』
ジュノには、何の連絡もなく、突然日本に、帰国してきた事を告げる加奈子に、ジュノは戸惑いを感じて、少し、加奈子の傲慢さに、一瞬の煩わしさを感じた事が、ジュノ自ら、戸惑う!

ソウルでの、ジュノの、あまりにも、辛い姿を見た、加奈子は、心配のあまり、アメリカでの仕事をすべて、キャンセルしての、思い切った行動は、ジュノには、理解出来ないし、理解したくない事で、今のジュノは、今、誰とも接したくないし、気力と精神力は仕事だけで使い果たしている状態・・・

「言葉を交わしたくない!」
「ひとりで過ごしたい!」

今、ジュノ自身のいる空間を、誰にも、犯されたくない!、そんな思いが強いのだった。

だが、加奈子は、ジュノを救えるのは自分だけ!心の支えになり、助けられるのは私だけだと思い、心のすれ違いに、気づこうともせずに、ジュノの心に、泥靴のまま、踏み込んで来る、加奈子の無神経さがジュノには耐え難い屈辱を感じてしまう。

(10)<すれ違う想い>
加奈子のジュノに対する愛の深さが加奈子のいつもの、確かな理性を狂わせて、冷静な判断が出来ない、ジュノが一番嫌いな女性の姿をさらけ出してしまっていた、ふたりの心が張り詰めすぎた、もろさから起きた事だった。

私には触れないでくださいこの体は痛すぎるのです
ほんのわずかに触れてもそこには大きなあざになって
消えることがない混乱と矛盾が私を狂わす
今は私にだれも触れないでひとりにさせてください
今は幸せなど求めない美しき人の本当の苦悩する姿
私は今、心があざだらけです体中が傷だらけです

どちらかと言えば、加奈子はすこし、気が強い性格、思い込みも強い、けれど、今までのジュノであったなら、ジュノはそんな加奈子が好きだったし、どこか、我儘で幼稚さを隠したジュノの性格が、加奈子に頼って甘えられる気持ちが、自分勝手だけれど、ジュノ自身では気づいてはいない、ジュノにはそんな多面性がある性格だ。

そういった、複雑な人間性を持つ、ジュノを、おおらかな性格である加奈子だったからこそ、すべてを包み込む愛情で受入れてくれる、ジュノには、居心地の良い、都合の良い事で、好ましかった。

むしろ、心が寂しい時には、母のような接し方で、包み込んでしまう不思議な安らぎをジュノは無意識のうちに覚えていた。

だが、今のジュノは、三十六年の生きざまを、消してしまいたいほど、『自分自身も愛せないし!』
他人を思いやる、余裕などない、張り詰めて心が砕け散ってしまいそうだった。

昔、よくみた夢でみるの世界を歩いているように、心もとない不安!何処かわからない雪山をひとりで歩きだした! 「かみそりの刃のような、ナイフリッジ!」
一歩前へ進む事の怖さと、緊張感の中、一瞬!足を踏み外して!自分が、谷底へ落ちて行く姿を、よく夢でみて怯えた。

あのどうしようもない、怖さがジュノの精神を脅かしているように感じて、加奈子がそばにいる事で、益々、息苦しさをましていた。

もはや 『何処にも、ジュノ自身の居場所がない!』

悪気のない、優しさのつもりで、話しかける、加奈子のひと言が、どうしても、ジュノの心のバランスを崩してしまう、そして「ごめん!ひとりにさせてほしい!」

ジュノは、簡単なメモ書きを残して、ホテルに移り、一人で暮らして、スケジュールの詰まった、手術を、次々と、こなしていた。

ジュノはやはり、外科医としての才能は、確かなものだった! ジュノ自身が、どれほどの苦しみを抱えていても、いざ、 『メスを手にした瞬間から、外科医として』 別人になっていた、むしろ、ジュノは、意識的に、別人になろうとしていたのだろうか・・・

メスを使う技のさえは、周りの者の驚きと称賛する言葉さえ、聞こえて来る。
ジュノ自身も、いつの間にか、メスを手にした瞬間から、すべての苦しみから解放されていることに気づく、それはまるで、自分ではない 『誰かに入れ替われるような、瞬間だった!』

ホテルと病院との行き来するだけの生活に、いつしか、ジュノは満足しているような、安心感さえ、感じているジュノ! けれど、ふたたび、何か、ジュノに吹く風が突風であったなら、簡単にへし折れそうなほど、危うい精神状態が続いて、時が過ぎて行った。

ジュノの冷たすぎる行動を、理解できぬまま、加奈子は、ロスに帰って行ったが、加奈子もまた、心の中で、ジュノへの思いと、理解されない事の苛立ちを、ヨセミテの岩に、ジュノへの想いをぶつけるように、ひとり、岩壁を登り続けていた。

やがてその事が、ジュノの、新たな、苦しみを生む事でもあったが、今のジュノには、加奈子を思いやる気持ちも、その事を考える余裕さえなく、日々は、虚しいままに過ぎて行った。

ジュノは、自分の部屋に戻り、仕事だけに意識を持ち、数ヶ月が過ぎた頃、やっと、大杉さんと連絡がとれ、会うことになった。

だが、なぜか、東池袋のある場所が、待ち合わせの場として、大杉さんは、指定して来た、聞き覚えのあるような気がしたが、はっきりとした記憶はなく、ジュノは、その場所に出向いて、驚いた、そこは、母が最後に住んでいた 「古アパートだった!」

もう、とっくに、取り壊されているものと、思い、ジュノは、母の最期に過ごしていた場所を尋ねてはいなかった。

このあたりの土地を買い占めて、再開発する予定の会社が、突然の倒産で、取り壊し工事は、途中で打ち切られて、十部屋ほどあった、アパートは、まるで、誰かを恨みながら、うめき声を上げているように、もとの姿をとどめたわずかに残された、三部屋のドアや、窓ガラスが、周りの超高層マンションの巻き起こす風をすべて受け止めて、悲鳴のようにうねる!

「空気を引き裂くような、耳障りな音が不気味に響く!」

この場所を、警備する人に、何がしかの物をわたした大杉さんの計らいで、残された部屋を見せてもらうことになって、この崩れかけたアパート、北側の角部屋が母のいた部屋だと、大杉さんは言って、案内してくれた。

だが、大杉さんは、母が、ここにいた時には、会うことが出来なかったとも言った、なぜ、居場所を、知っていながら、会えなかったのですかと、問いただしたい気持ちを、なぜか、ジュノは言葉をのみ込んで抑えてしまった。

母のぬくもりさえ消えて無機質に吹く風
隣にいる貴方は大都会の見知らぬ人々
誰を愛しているのですかこの胸の中で
幼児の泣く声が切ない聖母マリアのような母
美しき人はここに立ち見えない母の姿を求める

(11)<母の居た場所>
母の住んでいたという部屋は、四畳半ほどの、昔でいう、学生アパート、昔、流行の歌「神田川」に出てくるような、四畳半に押入れが部屋に飛び出している、いかにも狭い部屋、その押入れには何もなかった。

トイレも共同、もちろん風呂などは付いていない、かなり、古い建物で、ほこりにまみれた二階の角部屋だった。

小さな手鍋が一つ入るかどうかのせまい流し台が付いていたが、なべや食器など、生活用品と言われる物が、何ひとつ無い!あまりにも異質な感じがする! 『殺風景で寒々とした部屋だった!』
布団さえも無くて、母の物かどうかさえ分からない小さな旅行カバンが一つ残されていた。

この残酷なほどの空間をしばらく、ジュノは身動きもせずに見ていた。
ふたりは、何も言葉を交わすことも無く、お互いの息苦しさと鼓動が分かるほど気まずい空気の中、大杉さんは唐突に、自身の事を話した!

「この二十六年の歳月を、私は定職にも付かずに、ただ、君たちの母さんと妹の樹里ちゃんのふたりの行方を、捜し続ける歳月だったと一言いった!」

捜し続けて、やっと、ふたりの居場所がわかり、訪ねて行くと、もう、そこには、母と妹の姿はなく、どこかへ、消えていて、会うことが出来ない、そんな事の繰り返しの歳月だった。
「私にとって、今日までの二十六年が無駄な事だったのだろうか?」 そう言った大杉さんは、後は黙ったままだった。

ジュノは、あの突然、母だと分かった時に、ここを訪ねなかったのかを、後悔した。
これほど、何もない! 残されていない事が、信じたくない! この部屋にあるすべての物をジュノは大切に持ち帰った。

母がつけたかどうかも分からない、どうしても、ジュノの中にある、気高くて、清楚だった母!
「母の姿とは異質なピンクのカーテンもはずしてた。」

あまり、話したがらない、大杉さんを、問い詰めるように、母と妹は 「なぜ!姿を隠さなければ、いけなかったのか!」
気がつくと、大杉さんにジュノは詰め寄ってしまった、とても気まずく、重い空気が流れていた!
ジュノと大杉さんの心情は、とにかく、ここを早くぬけ出たい思いと、母の無念さを感じて、体が動けないように、重く!矛盾した感情!

大杉さんは、ひどく顔色も悪く、よろよろと、力なく、この部屋から去って行ったがジュノはもう引き止めておく事が出来なかった。

大杉さんは帰り際に、気力をふりしぼるように言った。
「とにかく、早く、君を助けたかった!」
「あの時は事故現場に行く事しか、考えられなかった!」
ジュノが大杉さんに聞きたいと思う事を何ひとつ話さずに、大杉さんは帰って行った。

しばらくは、ジュノも仕事のスケジュールが詰まっていて、どの手術もジュノの集中力を最高のものにしておかなくては行う事が出来ないほど難しい手術ばかりだった。

そのうちのひとりの患者は、山で、遭難して、奇跡的に生存して、助けられた人だ。
ソロクライマーとして、山の世界では、この人を知る者も多かったが、常にひとりでの行動であった事で、事故がおきたことを知られるのが、かなり遅く、救助されるのがあと一日遅かったら、生きてはいなかっただろう!

「黒部、奥鐘谷」からの生還だった。
by hisa33712 | 2012-06-20 17:35 | 残酷な歳月・・・(小説)

残酷な歳月・・・(小説)

(17)<愛する人は>
加奈子がどんな男とつきあおうが、年下だから,どうだと言うのだ! 加奈子はもう立派な大人だ! ましてや、物事の分別をわきまえている人間だ! ジュノの中で、マークへの反発さえ感じた。

昔から、マークは何かと、加奈子に興味を抱いていたではないか!
ふと、そんな事さえ、思い出して、あらぬ邪心まで抱く、ジュノには、マークの好意は、ありがたいが、もう今は、沈黙して、見てみぬ振りが、友としての、友情ではないかと心の中で、反発していた。

無意識の中でつけていたテレビに映る、バレーダンサーの舞う姿、 「ラヴェルの、ボレロ」のリズムに、ジュノは言い知れぬやすらぎを感じて、引き込まれるように観ていた。

そういえば、いつだったか、加奈子とニューヨークを旅した時、加奈子がこのバレー公演を観たがったが、ジュノは、別の、今では何のミュ―ジカルだったかさえ思い出せないが、お互いの欲から、ふたりで軽いけんかになった。

だが、結局は、ジュノの希望する、ミュージカルを観たのだったと、「ボレロ」を舞うダンサーの姿に、加奈子への思慕なの、懐かしさなのか、判別のつかない感情に、ジュノは苦しいような心が揺れる事に驚きながら違和感を抱いて、そんな、ジュノ自身に戸惑いながら・・・

そんな思いがよぎる中で、いつも、気になり、脳裏からはなれない心が痛む事、妹は今何処で、どうしているのだろうと思うだけで、いたたまれない思いに駆られてしまう。

どうしても、大杉さんにもう一度会う必要があると思い、出かけたが、以前訪ねた場所には、もう住んではいなかった。

強引なまでにソウルの両親に聞き、その場所を尋ねても、大杉さんは、そこにも大杉さんは住んではいなかった。

穂高のガイド、佐高さんは、大杉さんと、二十七年前のあの事故以来、何度も会っていて、時には一緒に事故現場を訪れては、母と妹の手がかりをさがし歩いたと聞いていたので、ジュノは、佐高さんにも、大杉さんの居場所を問い合わせたが、おしえられた場所には、やはり大杉さんは住んではいなかった。

ジュノの周りにいる人間は、誰も、今の大杉さんを知る者がいない事になる!
ふと、ソウルの両親は、まだ、ジュノに対して、すべての事、 『真実を話してはくれていない!』 あの優しい、養父母にまでも、不信感を持ってしまう事が、ジュノは悲しかった。
誰も信じられない、そんな思いが、ジュノを不安にして、疑問を抱かせてしまう!

ふと、ジュノは子供の頃、まだ、寛之だった頃に、一度も父の故郷、岡山へ連れて行ってもらった事も、父から自分の故郷の話を聞いた事がない!
『父の両親!、祖父母に、逢ってみたいと思った!』

このような、とても大切な事に今まで、なぜ、気づかなかったのだろうと、ジュノは思った。
寛之は祖父母に会ったことがなく、何も、祖父母の事を話してはくれない父だった。

大杉さんから、岡山に「おじいさま、おばあさま」がいると、何かの話の中で聞いた事がある、そんな程度だった事が、今になって、ジュノは、とても不思議に思える事だ!
写真すら見せてもらえず、岡山の祖父母、又、実の母の韓国の両親!

ジュノには、祖父母に当たる人がいることさえ、十歳まで、ソウルで暮らすまで、はっきりとは知らされていなかったのだ。

ジュノの実の母の国、韓国の祖父母にも、十歳までの寛之の頃も、今も、会う事も、話を聞くこともなく、だが、その頃は、母は、おそらく、韓国の両親とは頻繁に連絡を取り合っていたことは、今のジュノにも想像がつくのだが・・・

実の母は、なぜ! 事故を境に、すべての関係を断ち切らなくては、生きて行く事が出来ないほどの事があったのかが理解出来ない。
その事がジュノには、疑問と不安をつのらせた。

穏やかで、優しい母と、無口で音楽を愛していた父、暖かな家庭として、大人になってからのジュノは、寛之として育った頃が何よりも大切な事として、記憶していた事が、もろく、くずれて行く恐しさを感じていた。

そして、実母と大杉さんの関係が、どのような事で、繋がっていたのか、実の父と今の父と大杉さんの三人が親友としての、信頼さえも、断ち切るほどの出来事があったとは! あの奥穂高山荘で、いったいどんな話があったのだろう。

たとえ、どのような事があろうとも、すべての事を、明らかにして、妹の行方をさがさなくてはと、心あらたに、ジュノは思うのだった。
たとえ、どんな真実があったとしても、父と母のあの優しい笑顔! そして、大杉さんの大きな背中を思い出しながら、なぜ、母は、日本人である大杉さんをなぜ知っていたのだろうと、漠然とした思いがよぎった。

遠い過去が迫り来る美しき人の知らない歴史
それは避けようのない定めか決まり事のように
どんなに逃れようとしてもつきまとう運命のいたずら
いく千の時が過ぎても美しき人の力を超えた
愛が物語る消す事の出来ない真実
今はじまる道は夢想のごとく醜さと欺瞞にみちて

今のジュノには、人を恋する想いが苦痛になってしまったのだろうか、それでいて、心の虚しさがますばかりだ。

大杉さんに会わなくては、何も解決できないと、思いながらも、一向に大杉さんの居所がわからず、ジュノは、焦る気持ちと、疑念だけが膨らむ。

ある日、穂高のガイド、佐高さんがジュノの勤める病院に訪ねて来た、なんでも、ガイド協会の集まりがあるので、上京して来たのだと!、 大杉さんの行方の事も気になるし!
今回は、ジュノさんにお願いしたい、大事なことがあるのでと、いって・・・

夜にでも、時間をつくってほしいと、言って、一旦は別れて、その夜に、佐高さんの泊まっているホテルにジュノが出向いた。

待ち合わせの時間よりすこし早かったので、ジュノは久しぶりにひとり、このホテルの、スカイラウンジでワインを飲んで、気持ちを落ちつかせていると、ジュノのいる席からすこし離れた場所にひとりの女性がいた、ジュノはその女性をどこかで見覚えがあった。

なん度か、ちらっと、見て、目をそらせては、思い出そうとしたが、その時は、思い出せなかった、だが、佐高さんの「個人的な話なので部屋」で、会いたいと言う事で、ジュノは部屋を訪ねて、驚いた、さっきのあの女性がいるのだ。

佐高さんの紹介した、この女性は、信州、安曇野で、実家は観光事業などを手広くやっている。
佐高さんのごく親しい友人の娘さんで、ご自身は今、養護施設の仕事をしているのだと言った、だが、今、胃がんにおかされて、地元の病院で、早急に手術する事になったのだが、出来れば、ジュノに手術をお願いできないだろうかとの、相談であった。

三人で話しながら、ジュノはこの女性に、何処で会っているのだろうと、思い出そうとして・・・
そうだ、確か、アメリカの大学時代に、学部こそ、ちがうが、一年先輩にいた人!
しかも、加奈子とは、親しかったように、思い出された。

同じ、日本人同士と言う事で、学部が違っていても、この女性
「田神りつ子は」
自分から親しげに、加奈子に近づいて来たと、そんなふうに聞いていた。

今、目の前にいる雰囲気とは違う、アメリカでの頃はいつも振る舞いが横柄で、男子学生に囲まれて、マドンナ的存在の派手なつねに目立つ女性だった。

彼女は、あるとき、真面目に勉強に励む、日本人男子留学生を、その気も無いくせに、さも、気があるようなそぶりを見せては、軽く誘惑する、そんな言わば自堕落的な生き方をしていた。

正義感の強かった、ジュノには許しがたい人間であった!

そして、その内のひとりの男子学生が、本当の理由は、分からないが自殺にまで、追いやったとも、聞いた事がある。

そんな良くない噂を、加奈子から聞かされて、ジュノは、いつもその度に、言い知れぬ、嫌悪感と腹立たしさを感じたものだった。

あれ以来、二十年近い歳月がすぎて、今、目の前にいるこの人は、あの頃の雰囲気がまるでなく、四十歳を迎える女、病気のせいもあるのだろうが、歳よりは老けて見える、生活に疲れた感のある、
「ただのおばさんだった。」

今、ジュノは、アメリカでの事、加奈子の事を話すべきか、ためらいを感じていたが、りつ子の方から話し始めた・・・
「加奈子は元気なの!」
「あなたたち、結婚しなかったのね!」
「ちょっと、がっかりだわ~、かげながら、気にしていたのに!」
とあっさりと言うのだった。

そして、りつ子は!いつだったか、マークからメールが来て、知ったけど、加奈子は今、若いパートナーと、「しっかり、楽しんでるようじゃないの!」と、言って、ジュノを驚かせた!

なんでも、アメリカ時代からの、ボーイフレンドとして、りつ子とマークは今も、つきあいがあるのだと言って、ジュノをおどろかせた。

(18)<古い友人の話>
マークがあの頃の、彼女の取り巻きのひとりだった事も、ジュノには、はじめて知る事だった。
友人としてマークを信じていた気持ちが、なんとなく、軽いものになった気がした。

佐高さんからは、大杉さんのその後の消息は何も新しいことが分からず、ジュノは、やはり、ソウルの両親には辛い事なのかもしれないが、会って、まだ、話されていない事があるのだろう、真実を、聞かなくては、妹の事も、実の父の事も、何も、分からないままでは、ジュノにはやはり、辛い現実のままだった。

だが、今日、この「田神りつ子」に出会った事が、ジュノの運命に大きく係わって来る事など、今、目の前にいる、彼女からは、想像も出来ない事が、この女性「田神りつ子」にはあった。

古い友の悪戯な囁きは忘れかけてる想いが痛い
平凡な女の裏側に潜むそれは悪戯なのか
偽りの微笑みは友情とは名ばかりの軽さ
遠い日の愛しさは苦しみの真実と渇き
今、美しき人の姿を際立たせて誰もが憧れる芸術
医術と言う芸術は誰でもがまねの出来ない力と技

考えもつかない、女性、田神りつ子との再会は、少なからず、ジュノは加奈子を否応なく思い出させれて、愛おしさと胸の痛さを感じた。

孤独感で、ジュノ自身が押しつぶされそうな状況の時、ジュノの唯一の甘えられる存在だった事から、ジュノの苦しみや苦悩を一方的に加奈子へ向けた仕打ちだった。

ジュノは切なさと、心のどこかで、加奈子のぬくもりを求めているジュノの自分自身の心の動きの不安定さ、戸惑いから加奈子への冷酷な行為だったが、気まずく、心がすれ違ったまま、別れてしまった加奈子だった。

佐高さんは、どうしても今日のうちに仕事上で会う人がいるといい「りっちゃん」とは、友達だったのなら、つもる話もあるだろうと、ジュノとりつ子をホテルの部屋に残して、急ぎ、出かけてしまい、なんとなく、ふたりの間で気まずい空気が流れたが、りつ子は、持ち前の人なつこさで、りつ子自身から話し出した。

「どうして、加奈子と別れたのよ!」
「あんないい女は、そうはいないのに!」
私がつき合っていた人の中では、
「とても信頼のできる人よ!」

少なくても、私の知っている女性の中で、私は一番信頼できる人と思って、いつも、見ていたのよ、加奈子をね!
「ほんとにもったいないわ~!」

このままじゃ、マークが狙っちゃうかも! それでもいいの!

やはり、あの頃の、りつ子だった!、どこか、ジュノの心の奥底をのぞき込むように、そして、容赦なく相手の痛い部分を、攻めるような、いたぶるような、面白がるような・・・

ジュノは、人間は、そんなには、変われないものなのだと,思いながら、もう、加奈子の事には触れて欲しくなかったので、話を、無理に、りつ子の病気の事に触れた!
りつ子は「私、もう、長くないらしいのよ!」

でも、ジュノの手で、終わりにして貰えれば、すこしは、気持ちが楽になれるかと、思ったの! それよりさあ~、私、「貴方が好きだったの、知ってたあ~!」
「知るわけないかあ~、知らないよね!」
「ジュノは、加奈子ひとすじ!」
と言うより、加奈子のジュノに対するガードが、凄かったもんね!

又しても、りつ子は、あの頃の事の話に戻して来た、ジュノは、覚悟した! 言いたい事があるのなら、今のうちに言ってしまえ! これから、おそらく、毎日顔をあわせるのだから、くだらない話は、ここで、聞いてしまったほうが良いと判断した。

「貴方さあ~一時期、ひどく痩せた時期があったよね!」
「なんとなく、顔の表情がきつくて!」
「怖いほどに、だけど、わけのわからない、憂いがあって!」
「凄く、素敵で、凛とした姿がいいんだよね!」
「ひどく、落ち込んでそうでいても、笑顔がきれいでさあ~」
「でも、すこし、体に肉がついて、顔がちょっとだけ、丸くなってた時は、本当に素敵でセクシー、その姿がたまらなく、良かった!」
「まるで、金太郎さんを、かっこよくして、走り回ってるようで、少年のような、しぐさが、可愛くてね!」

つい、私、手を出したくなって、加奈子を通して、ジュノを見てたのよ、そんな私の事! ジュノ、知ってた~! でも、どこか、本気で、手を出す事が出来ない!、
大げさに言えば、気高さが、怖かったような雰囲気があってさ!

むりやり何とか出来ない、不思議な、キレイさがあってね、いつも、貴方の姿を見ると、自分の中の空虚な感情と女としての誇りのようなものが、わたし自身の中で喧嘩をしてるんだよね!

そんな、同じような話を並べ立てて、話が尽きたのか、ジュノは、聞き手一方だったから、さすがにりつ子も、恥ずかしくなったようだ。

りつ子は真顔になって、佐高のおんじーから、ジュノの事をきく前から、貴方の外科医としての優秀さは、知っていたのよ!
本当は、私が、直接、会いに行って、お願いしたかったけれど、佐高のおんじーが、ジュノと親しいから、私の手術をお願いしてくれると、言ってくれたのよ!

もっとも、私が直接尋ねても、会ってもくれなかったかしらね!
アメリカ時代の頃の私はたぶん、ジュノに嫌われていたんでしょう!
そのくらいは、私も分かっているんだけれど、いくら、「馬鹿!」やっていても、ここは(胸)熱かったんだ!
りつ子は照れながらも、自分の心は、まるで、清らかだといわんばかりに、ジュノに話し続けた!

佐高のおんじーから、「お母さんと、妹さんの事、聞いてるわよ!」

私ね、はじめは、そういえば、子供の頃、父親が、貴方達の事故の時、捜索隊の一人として、何日も山へ出かけていたのを思い出したのよ!

それと、あの事故の年か、もっと、あとだったか、よく覚えていないけど、たぶん、ジュノのおかあさんと妹さんに、 『会ってるかもしれないのよ!』

けどね、穂高ではないのよ!、別の場所にある山小屋で、会っていると思うの!
親戚の山小屋を手伝いに行った、夏休みの終り頃か、それより前なのか、後かな~、山に凄く雪が降ってね、季節はずれの、大雪が降って、親戚中の人が、借り出された時にね!

それと、はっきりとした、自信の持てる事ではないのですけれど! 十五年くらい前になるかな、私の住んでいる信州、安曇野でね、たぶん、ジュノのお母さんだと思うけれど、あの山小屋にいた女の人に会っているんだよ、確かなことではないので、今まで誰にも話してないけど、ずーと、気になっているのよ、なぜか、わからないけどね!

突然の訪問者は言うきっと叶う夢だと
その口が真実を言うのか君はいつだって軽く
誰かを誘い惑わす、美しき人はただ信じたい
もう何度この胸を弾ませて夢を見てきた美しき人の願い
誰も私を騙さないであの山の彼方にいた母の姿を

ジュノは、「りつ子は確かな記憶ではない事だけれど、母と妹に会っている!」とおぼろげな確信を持った、その後にも、りつ子は母には十五年ほど前にも、信州、安曇野で、出会っていると言う!
りつ子の、あまりにも簡単に話す事が信じられず、疑念さえ覚えるが、ジュノはりつ子を信じたい!

今は、どんな小さな情報であっても、ジュノにはありがたくて、大切な事で信じたい情報だった。
ましてや、今のりつ子はアメリカ時代のような、小悪魔的で退廃的な生き方ではないようで、あの頃のりつ子を知らなければ、誰でもが、信頼する人物に見えるだろうし、雰囲気的にも、セレブなご婦人!、社会的に認められた女性の姿だった。

現に、りつ子はアメリカから帰国してすぐに、一人娘だったこともあり、親の仕事を継ぐ為に、親の進めで、地元の事業家と、極めて平凡な結婚をしたと、ジュノは、りつ子の一方的な、自分のこれまでの生活や、今の仕事の事などを長々と話して聞かせた。

ジュノが驚きと戸惑いの中で、一番聞きたい、母と妹の事も、なんの戸惑いもなく、簡単に話す、りつ子の姿に、ジュノはどう、反応すればよいのか、定かではないが、あの事故にあった頃の事なのだろうか!

りつ子は、さも、もったいぶるように、ジュノの戸惑いを楽しむように、あの頃のりつ子の嫌な部分を見ているようで、りつ子の口元だけ派手に動く、得体の知れない、生き物に見えて来た!

ジュノの心がオドオドしている姿を垣間見て、喜んでいるかのような意地悪さが見え隠れする。
りつ子はやはり、魔女で、人の心をもてあそぶ悪魔的人間だった。

「でもね!本当に、あの事故の後なのかな~、十一歳の子供の頃でしょう!」
「私、あまり、はっきりした、記憶じゃないのよ!」
「それに、嫌々手伝されていたし!、寒かったしね!」
と、気だるい、口調ではなした。

今思うと、たぶん、あの事故の事を、ニュースや父親が何日も捜索に出ていたから、覚えていたのかもね~、そう思えば、なんだか繋がった記憶になるのよ!。

手伝いに行った親戚の山小屋はね!「槍ヶ岳へ向かう途中の小屋」なのよ!登山客は誰もいなかったのよ!私も最初は、誰かが、いるなんて、知らなかったのね!

大雪が降り、予定より早く山小屋を閉める事になり、親戚中の者が借り出されて、小屋じめの仕事をしていて、お布団を片付ける為に薄暗い、「普通はあまり使わない個室」に入ったら、人がふたりでうずくまっていて!、驚いたわ~本当に! まるで、「幽霊か、お化けがそこにいた!」
そんなふうに見えたのよ、私は怖くて、足がすくんで動けないほど、おどろいたのよ!

小屋の人達も、誰も、無断で入っている人がいるなんて、思わないから、いつもいる小屋番の人も知らないみたいだったから、急いで、おじさんたちに知らせたわよ!

ふたりとも、かなり体が弱っていて、動けない状態だったので、あすにでも、小屋番の男の人を一緒に下山させるからと、伯父はそのふたりに話して、その夜は、ゆっくりと休んで貰うことになったのよ! けれど、朝になったら、ふたりとも、消えて、いなかったのよ!!!
by hisa33712 | 2012-06-20 17:32 | 残酷な歳月・・・(小説)

残酷な歳月・・・(小説)

(32)<大杉さんからの手紙>
差出人の分からない荷を不思議なほど期待と不安の混じった感情の高まりを覚えながら荷を開けて、驚いたのは、母が最後まで大切に持っていた!!!

『あの詩集、反戦の詩が載っている!』

同じ本が、三冊と大杉さんからの長い手紙が入っていた。
『大杉さんから送られてきた荷物だった』

大杉さんの手紙には、
『今、自分がいる場所は、言えない!』

おそらくは、私は、もう、長くは生きられないだろうと思う。
『肝臓がんの末期のようだ!』

『今しか、すべての事を話す機会がないと思い、ここに、すべての事を書き残す事にした。』

だが、ジュノ(寛之)も樹里も、この伯父さんを信じてくれるかが、本当に心配です!

先ず、何から、話せばよいのか、思いばかりが、先走り、言葉にならない気持ちが辛い!
たくさんの許しを請う事があって、気ばかりが焦りますが、今、この頭に浮かんだ事から、ひとつ、ひとつ、書きますから・・・

『必ず、読んでください、お願いします!』

一番に知らせたいのが、あなたたちの韓国の祖母!
『私と君たちの実の母の』

今、日本に住んでいて、元気に暮らしています。
そして、私、『大杉春馬』は、

『貴方たちの本当の、母方の伯父です!』

君たちの実の母
『イ・スジョン』

は、父親がちがうが、私、大杉の妹なのです。
君たちのおじいさんは
『イ・ゴヌ』

と言って、朝鮮半島が、日本に統治されていた時代に、小さな、出版社を営みながら、危険な状況の中で、密かに!
『朝鮮の民族が、日本の統治から独立する事!』

『日本政府の厳しい監視の中で、独立運動をしていた人です。』

その、独立運動の仲間だった、君たちのおばあさんは、十七歳の時に、『朝鮮総統府』に出入りしていた日本人に、拉致されて、ひどい拷問を受けた中で、暴行されて、その時に出来た子供が、
私!『大杉春馬』です。

あまりにも、衝撃的な事で、驚いたことだろうけれど、すべての真実を、君たちには知ってほしい、知っておくべき事です。

何年か後に、私、大杉の母
『キム・ソヨン』

は君たちのおじいさんである
『イ・ゴヌ』さん

と結婚して、生れたのが、君たちの母
『イ・スジョン』なのだよ!

私の日本人の父は、誰なのか、確かな事ではないが、私が成人して、大分時間が経った頃に、私の父だと思われる人物が、外交問題を専門に研究した人物として、名をなした人物! つい最近まで、日本の政治家として活躍していた!

しかも、朝鮮問題を研究し、論文に書いて、発表して、絶賛された事を、今、日本に住む、私の母『キム・ソヨン』は、かなりショックを受けたのですが!

私には、何一つ、話すことなく、耐え忍んで、日本で、生きて行く事を幸せな事と考えたのです。

君たちがこの真実をどう、受け止めるか、私が答えを出す事ではないと思う!
ふたつの国の不幸な時代に、朝鮮の人々は!

『民族の誇りである、朝鮮語を奪われた!』
『強制的に日本語を話さなくては、生きて行けない時代!』
『人が生れて、はじめて話す、馴染んだ言葉!』
『たとえ、朝鮮の人間であっても!』

あの時代に、日本語で育った人間は、物事を考える時に

『民族の言葉ではなく!』
『考える人の、思考回路を!』
『日本語がすべて、先んじて、決めてしまう事の、悲しみを!』

少しでも良いから、心の片すみに留めておいてほしい!
君たちが、なにより、一番知りたい事は、なぜ!、穂高での事故が起きたのか?

『真実を知る事だろうね!』

私にも、今だ、どうして、あの忌まわしい事故が起きたのか、わからないけれど、お互いの誤解から、あんなむごい事故が起きて、その後の行き違いや、まちがった情報が伝わり、君たちや、お母さんに申し訳ない事になってしまった!

ジュノはもう知っているだろうが、君たちの実の両親は、両方の家から、結婚を認めてもらえなくて、特に、蒔枝の家では、父である
『蒔枝伸一郎』は結婚したと、同時に勘当された!

その事で、岡山の実家とは、まったくの音信不通の状態になってしまった!
ジュノ(寛之)と樹里が生れても、蒔枝の家からの許しがなく、一切の連絡さえ、出来なかったから、君たちが岡山の蒔枝の家の事を知らなかったのは当然なのだよ。

君たちの母『スジョン』は、私が、兄だと言う事を知らされずに!、
たぶん、日本に留学する時に、韓国の両親からは、私は、日本での、在日韓国人の一人で、その頃には、反戦運動家として活躍していた。

『イ・ゴヌ』 『キム・ソヨン』

の大切な、日本での支援者なのだと、聞かされていたようで、私は、一度も「妹、スジョン」からは、兄として接して、又、兄として、名前を呼んでくれた事がなかった。

だから、君たちの母は、死ぬまで、血を分けた、兄の存在を知る事なく、亡くなった。
私はそのことが、何よりも悔しくて、悲しい事だ!
私自身も又、隠された『存在』だったようで、辛い!

だか、今も、実の母や義父(イ・ゴヌ)の考えが、理解出来ないけれど、何か、真実を告げられない事情があったのだと、思う事で、私も、兄だとは告げずにかげながら、妹を、そして君たちを心から愛し続けていたのだよ!

当然の事だが、君たちの実の父「蒔枝伸一郎」にも、私が、「君たちの母、スジョン」の兄だとは知らされていない!

そして、韓国への支援者の在日韓国人の仲間のひとりとして、付き合い、同郷だった、親友の君たちの父である 『蒔枝伸一郎』へ、大切な妹『スジョン』を紹介したんだよ。
私は、君たちの家族と過ごす時間が、最高の贅沢であり、いつも、
『最高の幸せな時間だった!』

君たち家族に登山やハイキングを進めたのは、僕だからね!、
朝鮮動乱の時は、とても苦労したが、朝鮮の親族の多くは、北朝鮮で、行方不明になったが、君たちの祖父母は韓国を選んだ。


(33)<穂高でおきた事>
君たち、ふたりのおじいさん、おばあさんは、韓国人として、韓国、いや、朝鮮半島が平和な地であって欲しいと真剣に考え、宗教者として常に祈り、その後も、表立っての政治家ではなく「反戦運動」を続けていた人なのです。

韓国がベトナム戦争へ参戦する事になった時に、激しく抵抗して、おじいさんも、おばあさんも、しばらくの間、投獄された事もあるが、正しいと思う事を曲げずに、反戦運動を続けた人だ!どんなに、辛い立場になっても

『平和への願い』

反戦の気持ちは変わらなかったが!

あの穂高での事故のあった頃に、韓国では、とても大変な
『悲劇的で物言えぬ時代』
になって、すべての運動が出来ない、独裁政治の武力に常に監視される状況になってしまった!

君たちの祖父母、ふたりに暗殺の危機が迫っていて、身を隠す事になって、その時に問題が起きて、間違った情報が伝わった事で、同じ運動の仲間からも、日本の支援者からの支援金の横領の疑いをかけられてしまった!

たぶん、韓国でも、私たちの運動を、良く思わない人々がいて、権力に連なる組織があったり!表向きは平和で、民主主義を語りながらも、あの時代は、誰もが自由に、もの言えぬ、時代でした!

目立つ運動を極端に嫌う、良く思わない人たちもいて! あの時の隠されてしまった、真実!
今も確かな事が分からず、とても残念で、悔しいし、真実を明かす事が出来なかった、私の不甲斐なさは、あちらの世界に行った時に、君たちの父と母にお詫びするつもりだ!

この事の真実を明らかに出来ずに死ぬ事は、
『私は身震いするほどの怒り!』
を覚えるが、もう、私にはどうする事も出来ないほど、体が動いてはくれない!

『今はただ、だれよりも、君たちに信じて欲しいのです。』
『君たちの前で話せない事が、残念ではあるが!』
『君たちは、真実を見る眼を持つと信じています!』

だが、あの頃の政府と、反戦運動の同士からの疑いをかけられ、又、何者か分からない者に私の母、「キム・ソヨン」は謎の交通事故にあい、危うく命を奪われる危険な状況になった事や眼に見えぬ暗殺の危険が身近に迫っていた事!
そのような状況の中で、あの事故がおきてしまった!

同じ頃だった!
あの穂高への登山に誘ったのは!
『一緒に山に行ける事が、何よりの楽しみだったからね!』

まさか、あんな、むごい事故が、おきてしまうなんて、思ってもいなかった!
君たちのおじいさん、おばあさんは、政治家ではなかったが、日本の統治時代は、出版の仕事をしながら、独立運動を渾身の思いで、懸命にやっていて、とても、人々から信頼されていた、日本人の友人も多くいた人で、知識人だった。

韓国での危険な情況では生き抜くことも難しい判断し、義父「イ・ゴヌ」と母「キム・ソヨン」は、危険から逃れる為に、韓国から、出て、日本で、名前を変えて、暮らす事になり、その時の手助けをしたのが私だった事から、多くの在日韓国人の方にも誤解され、その事が、君たちの両親にも不信感を持たれたようで、穂高を一緒に歩いて話し合い、誤解を取り除きたいと、登山に誘った!

私は、神に誓って、話します。
この不名誉な疑惑を抱かれた事件には、決っして、
『ふたりが不正はしていない!』
『私も不正にお金の横領など、絶対にしていない!』
『この事を信じてください!』

だが現実に、在日の方々に支援していただいたお金!
かなりの大金が、何処かに消えてしまい、誤解が疑惑を生み、私と君たちの祖父母が横領した事になってしまった事で、益々、韓国の同士の方や在日の方々から、追われる立場になった事!

その打開策を話し合う為に、在日韓国人の実力者の方、数名を、私が案内して、穂高、奥穂高小屋で君たちの両親と会い、話し合う約束になっていたが、その方々が、なぜか、来てくれなかった。

その事で、君たちの両親と話をしている時に、誤解が生れて、言い争いなってしまい、君たち家族は、急に、帰る事になって、小屋出てしまい、私は、必死で、後を追いかけた。

あの場所で、あの事故が起きた場所で、追いついて、又、言い争いになった時、つい興奮して、君の父に触れたと同時に、伸一郎君と君は、浮石に乗ってしまって!
『滑落してしまったのだよ!』

だが、どんな言い訳をしても、君たちの父は戻っては来ない!
許される事ではないが、決して、突き飛ばすなど、絶対にしていないし、思ってもいなかった!

君の母と妹、樹里は、あの事故を眼前で見ていて、私を誤解して、おそらく、ショックが大きくて、私を恐れたようだ!

韓国の両親の行方もはっきりとわからないまま、夫と、息子も、事故で、亡くなったと思い、自分たちも、いつか・・・
『私に殺されると思ったのだろう!』

恐怖と混乱の中で、君たちの母は、心が壊れていってしまい、恐怖だけが、増幅してしまったようだ!
私はもう、かなり、体も悪い状態で、ジュノと妹の樹里に、会って、今までの、君たちの運命を変えてしまった!悲惨な思いをさせた事を、何より許しを請いたい!
死んでも、死に切れない思いだと書かれた手紙が添えられていた。

何処まで私は悲惨な運命
明瞭なる姿は消えて
いつまで悲しみの道を生きるの
美しき人が願う
大好きな人は私を欺いて
この心を奪っていたのですか
今、新しい朝を迎える
しなやかなる肉体に光を
それはだれも邪魔など
出来ない大きな力
運命など打ち砕いて
自らの命が宿るエナジー
by hisa33712 | 2012-06-20 17:26 | 残酷な歳月・・・(小説)

カシャ、シャッター音が楽しい、古くて重いフイルム写真ですが私の宝物、記憶写真と眼の悪い私が今を映す感覚写真ですが観ていただければ嬉しいです、生きがいですから・・・


by hisa33712
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